脳神経内科医によるブログです。自己学習として読んだ論文や、論文中で出た英単語を記録しています。

Bing-Neel症候群の総説  まとめ備忘録 その1|神経内科の論文学習

最終更新 2021年4月23日

 

前回,Bing-Neel症候群に関するNEJMのMGH caseを取り上げました.

 

www.neurology-memo.work

 

Bing-Neel症候群について,知識不足であったため,総説を2つほど読んでみました.いずれも分かりやすい内容でした.備忘録としてまとめたので,共有いたします.

 

長くなるため幾つかに分けてます.今回は その1 として,疾患概要と臨床像,疫学等についてです.

 

 

今回の文献

Guideline for the diagnosis, treatment and response criteria for Bing-Neel syndrome

  Haematologica. 2017 Jan;102(1):43-51. 
  
doi: 10.3324/haematol.2016.147728.
  
PMID: 27758817

haematologica.org

 

How we manage Bing–Neel syndrome
  Br J Haematol. 2019 Nov;187(3):277-285.
  doi: 10.1111/bjh.16167.
  PMID: 31430829

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

Waldenströmマクログロブリン血症とBing–Neel症候群の関係

Waldenströmマクログロブリン血症(WM:Waldenström’s macroglobulinemia)は,モノクローナルなIgMパラプロテインを産生する腫瘍性リンパ形質細胞リンパ腫である.

WMの臨床像は様々であり,無症候性の場合や症候性となり貧血や神経症状(末梢神経障害,過粘稠度症候群など)を呈することもある.

稀に髄外症状として胸膜病変や腎臓病変,中枢神経病変を生じうる.WMによる神経浸潤で生じる症候がBing–Neel症候群(BNS:Bing-Neel syndrome)である.BNSはWMの約1%で合併する稀な合併症である.

歴史

1936年にJens Bing とAxel von Neelがマクログロブリン血症患者に合併する亜急性の神経症状を2例報告し,Bing–Neel症候群として認知された.(その8年後の1944年にJan Waldenströmが骨髄腫に伴う貧血,マクログロブリン血症,凝固異常を報告した)

Bing–Neel症候群の臨床像

BNSの臨床症状は多様である.中枢神経,稀に末梢神経を障害する.
症状は緩徐に進行し,週~月単位で発症,進行する.

症状

  • 頭痛,嘔気・嘔吐,視力障害,聴覚障害,脳神経麻痺 (顔面眼球神経麻痺など).通常は髄膜病変を伴う.
  • 痙攣,認知機能障害,失語,精神症状,小脳障害,意識障害,麻痺など(脳実質病変あるいは脊髄病変を反映する).
  • しびれや痛みなどの感覚症状 (脳実質や脊髄病変 あるいは馬尾病変,脊髄神経根 などの障害を反映すると考えられる).

BNSを診断あるいは除外できるような特異的な症状は存在しない.

症状の頻度

48%で平衡感覚障害を伴い,最もcommonな症状と報告されている.他の症状と頻度は,脳神経麻痺 29~36%,認知機能障害27%,感覚障害 12~25%,頭痛 12~18%,腰背部痛18%である.

鑑別疾患

過粘稠度症候群(HSV:Hyperviscosity syndrome)

HSVの症状として,新規発症の頭痛,視力障害,鼻出血,思考力低下などがある.

IgMの高度上昇や血清粘稠度測定でHSVとBNSを鑑別する.血清IgM <30 g/Lでは,症候性HSVは稀である.

眼底検査では,網膜出血や網膜血管のソーセージ様怒張(sausaging)・ねじれなどを認める.

ニューロパチー

脊髄神経根あるいは馬尾病変による感覚症状はニューロパチーと類似する.IgM関連ニューロパチーでは,左右対称性のlength-dependentな感覚症状が月~年単位で新個数る.症例によっては,抗MAG抗体(myelin associated glycoprotein)を検出する.MAG抗体陽性 ニューロパチー と間違われる.MAG抗体陽性ニューロパチーでは,感覚性失調,歩行障害,遠位優位筋力低下を生じる.

左右非対称性の分布や運動優位の症状の場合は,BNSを疑う.

血清の抗MAG抗体を検査する.

リンパ腫/リンパ性白血病の中枢浸潤

リンパ腫瘍,DLBCL,辺縁帯リンパ腫, 慢性リンパ球性白血病,ホジキンリンパ腫,NK/T細胞性リンパ腫 は中枢神経も障害しうる.

組織学的検査でBNSと鑑別する必要がある.

疫学

Bing-Neel症候群の頻度,診断までの期間

BNSは症状が多様で,頻度も稀であるため,しばしば診断に期間を要する.

BNSの頻度は正確な分かっていないが,1,523例の WM のレトロスペクティブコホートでは 13例(0.8%)で BNSと診断された.そのため頻度は非常に稀と考えられている.

後方視的解析では,BNS発症から診断までの中央期間は4ヶ月であった.さらに,20%の症例は1年以上かかると報告された.
また,BNSと確定診断される前に死亡することもありうる.

無症候性 BNSも存在する可能性があるが,頻度は不明である.

Waldenströmマクログロブリン血症とBing–Neel症候群の時間的関係

WMのあらゆる段階でBNSを生じうる.

WMが寛解し,M 蛋白が微量あるいは検出感度以下となっている状態でも,BNSを生じ得る.

WM発症からBNS診断までの中央期間は3~4年とされる.

BNSの30%は,WM治療開始前にBNSを合併する.さらにその半分はWM診断時にすでにBNSを合併していた.他の報告では,BNSの36%で,WMの初発症状としてBNSを発症していた