脳神経内科医によるブログです。自己学習として読んだ論文や、論文中で出た英単語を記録しています。

発汗過多に関する総論:原因・病態~鑑別疾患|神経内科の論文学習

 多汗症

 脳神経内科では発汗低下や無汗症は自律神経障害の所見として重要です.

 しかし,発汗過多についてはあまり知識がなく,日常臨床で問われてもどのように考えればよいかわからないことがしばしばありました(@_@;)

 今回,多汗と聞いてどのような鑑別を考えるか知りたくて論文を読みました.

 ※申し訳ありませんが,病態や治療については割愛いたします.

 

  

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Hyperhidrosis: Management Options

 Am Fam Physician. 2018 Jun 1;97(11):729-734.

www.aafp.org

疫学

アメリカでは人口の1-3%で多汗症がみられるが,その半数でしか医師に相談していない.

90%が原発性で,半数が腋窩多汗症.腋窩多汗症の1/3異常で症状に困っており,日常生活に支障がある.2/3で家族歴があり,遺伝的素因が示唆される.有病率に男女差はみられない.

 

原因と病態

原発性多汗症の原因は未だに十分に解明されていない.全身に分布し,特に手掌や測定,腋窩,顔面に多く分布するエクリン汗腺は,自律神経説後神経によって支配され,神経伝達物質であるアセチルコリンが刺激となる.エクリン汗腺の数やサイズの増大より,神経刺激が過剰となるため発汗過多となると想定される.原発性多汗症では,通常よりも,感情/身体的ストレスなどの発汗刺激に過敏である.

 

診断

病歴や身体所見,検査などの精度を調べた研究はない.

 

原発性限局性多汗症のCriteriaは以下を含む(2004;51(2):274-286.)
・限局性で視覚的に分かる発汗過多
・6ヶ月以上続く
・明らかな原因がない

以下の2つ以上に該当する
・両側性or対称性
・日常生活に支障がある
・週に1回以上ある
・25歳以下で発症
・睡眠中は生じない
・家族歴がある

4つのcriteriaを必要とすると,原発性と続発性の区別に役立つ(PPV=0.99,NPV=0.85)

 

多汗症は生活に影響しうる.複数のスケールが考案されているが,多くは複雑である.HDSSは日常生活への影響度や治療反応性の評価に役立つ.

二次性多汗症の原因

  • アルコール
  • 慢性肺疾患,急性呼吸不全
  • うっ血性心不全
  • 内分泌代謝異常お(例:糖尿病,甲状腺中毒症,低血糖,下垂体機能亢進症)
  • 発熱性疾患/感染(例:結核)
  • 味覚(例:辛味)
  • 悪性腫瘍(例:カルチノイド,褐色細胞腫)
  • 神経性(例:Arnold-Chiari奇形,パーキンソン病,脊髄損傷)
  • 生理的(例:閉経)
  • 精神科的(例:全般性不安障害,社会不安)
  • 薬物中毒,麻薬離脱

薬物

  • 抗うつ薬(SSRI,SNRI)
  • コリン作動薬(ピロカルピン,ピリドスチグミン)
  • 血糖降下薬(インスリン,SU,チアゾリジン)
  • SERM(ラロキシフェン,タモキシフェン)
  • その他(インフリキシマブ,ナイアシン,シルデナフィル)

 

加えて,少し前の論文ですが,原発性と二次性の比較に関しての報告についても読んでみました.

 


原発性と二次性に関して比較した研究(2005年の報告です)

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www.ncbi.nlm.nih.gov

Clinical differentiation of primary from secondary hyperhidrosis

 J Am Acad Dermatol. 2011 Apr;64(4):690-5.
 doi: 10.1016/j.jaad.2010.03.013. Epub 2011 Feb 18.

[Method]

1993-2005に大学病院皮膚科外来で,ICD-9の多汗症のコードがついた症例(n=415)をretrospectiveに解析.

[Results]

多汗症415例 (原発性多汗症387例(93.3%),二次性多汗症28例(6.7%)).

発症年齢

二次性は原発性に比べて年齢が高く,25歳以上での発症が多い (発症年齢が25歳以上の割合:原発性 vs 二次性=12.1% vs 55%)

発汗の分布
  • 原発性多汗症:93.6%は典型的な分布をとる(腋窩,手掌,測定,顔面).6%が非典型的な分布.腋窩単独が29%,手掌と足底 25%,足底単独15.5%,腋窩,手掌,足底11%,手掌単独6%,顔面単独5%.非典型的な分布としてて,体幹1.3%,臀部0.8%,下肢0.8%,乳腺下1例,首1例,手首1例.
  • 二次性多汗症片側性/非対称性が有意に多い(OR=51; 95% CI:12.6-208,P<0.00001).二次性は限局性より全身性が有意に多い(OR=18.6; 95% CI: 7.3-48,P<0.00001).夜間や睡眠中に生じやすい(OR=23.2; 95% CI:4.3-126, P<0.00001),家族歴が少ない.
二次性多汗症の背景疾患

内分泌性が57%,神経性が32%.

内分泌性では,糖尿病,甲状腺機能亢進症,下垂体機能亢進症など.

神経性は末梢神経障害,パーキンソン病,反射性交感神経ジストロフィー,脊髄障害,Arnold-Chiari奇形.神経疾患による二次性多汗症は,他の二次性と比べて左右非対称性が多い(OR=63; 95% CI: 4.9-810; P = 0.0002)

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