脳神経内科医によるブログです。自己学習として読んだ論文や、論文中で出た英単語を記録しています。

下垂足の局在診断に役立つ知識(Radiologyより)

最終更新:2020年8月14日

前回,下垂足について論文を読みました.

神経内科医として下垂足は必須の知識ですが,苦慮することも多いです.

まだ医学生だった時は,「下垂足(鶏歩)=シャルコーマリートゥース病」ということしか覚えませんでしたが,実は非常に複雑です!

 

www.neurology-memo.work

 

2018年のRadiologyで,「MRI of Foot Drop: How We Do It」という論文がありました.下垂足に関してMRIの視点に立った論文のようですが,電気生理学検査についても記載されており個人的に非常に参考になりました(電気生理学的検査の内容が意外に詳しかったです.Radiology侮れないと思いました…).

局在診断の知識がアップデートできました.

 

MRIの撮影条件は,難しいので省略しています……

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

下垂足の診療に役立つ解剖知識

下垂足に関連する解剖知識と,下垂足を生じる部位.

神経根~脊髄神経

下位運動ニューロンは,脊髄前角細胞から始まり,各高位で前根として出る.後根と合流して脊髄神経を形成する.

脊髄神経は,前枝と、傍脊柱筋起立筋を支配する後枝とに分かれる.

腰仙骨神経叢

L1~4 の前枝で腰神経叢を形成する.L4~5は仙骨神経叢を形成する.
腰仙骨神経幹はS1~S4の仙骨神経叢と合流して,腰仙骨神経叢を形成する.

上臀神経は,L4~S1の前枝の背側枝から形成され,中臀筋と小殿筋,大腿筋膜張筋を支配する.

下臀神経はL5~S2の前枝の背側肢から形成され,大臀筋を支配する.

坐骨神経(L4~S3)

上臀神経より遠位部で形成される.

大坐骨孔を通過して骨盤から出る.多くは梨状筋の前下側に沿って進み,大臀筋と内転筋の間から大腿後面に入る.

脛骨神経と総腓骨神経から構成される.こられは同じ髄鞘内を通り,大腿遠位部~膝窩より近位の場所でそれぞれの神経に分かれる.

総腓骨神経

坐骨神経内では脛骨神経の外側部を走行する.
大腿中腹で大腿二頭筋短頭への枝を出す

脛骨神経との分岐部より遠位では,大腿二頭筋と腓骨筋外側の間を走行する.

膝窩部では腓腹神経につながる外側枝を出す.バリエーションはあるが,外側枝は,脛骨神経から分岐する内側枝と合流して腓腹神経を形成し,下腿後外側と足の感覚を支配する.

腓骨頭周囲を通過する際,浅い位置を走行し,腓骨頭に近接するため,機械的損傷を生じやすい.

総腓骨神経は,長腓骨筋腱で形成される腓骨管を通過して,下腿の前コンパートメントに至る.
多くの場合,腓骨頭あるいは腓骨頭のすぐ遠位で,3つの枝(反回枝,浅腓骨神経深腓骨神経)に分岐する.

反回枝

総腓骨神経から分岐すると上行し,脛腓関節と膝関節包につながる.

浅腓骨神経

長腓骨筋と短腓骨筋の間を走行し,下腿の前外側と足背(first webを除く)の感覚を支配する.

 

深腓骨神経

前コンパートメントを下降し,長趾伸筋,長母趾伸筋の間を通過して,これらの筋と前脛骨筋を支配する.

足関節では,深腓骨神経は下伸筋支帯,前足根管を通過しする.
足では,短母指伸筋,短趾伸筋,intrinsic toe extensor musclesを支配し,first webの感覚を司る.

下垂足での電気生理学的検査

神経伝導検査と筋電図を含む電気生理学的検査.

末梢神経障害の局在診断のための第一選択の検査となる. 

神経伝導検査

下垂足の評価として両側の運動感覚神経検査から始める.

運動神経伝導検査

総腓骨神経

腓骨頭の上下で総腓骨神経を刺激し,伝導速度低下や振幅低下,時間的分散を認めた場合,腓骨頭での障害が示唆される.
腓骨頭で速度低下が10 m/sec以上低下する場合,脱髄が際される

深腓骨神経

深腓骨神経の検査では,足関節で刺激し,短趾伸筋(EDB:extensor digitorum brevis)で記録する.

脛骨神経

脛骨神経は,膝窩と足関節内側で刺激し,母趾外転筋(ADB : abductor hallucis brevis)で記録する.
脛骨神経でも異常がある場合,坐骨神経障害が示唆される.

神経根障害では,障害の程度に応じて運動神経で異常が出る場合があるが,正常のこともある.

感覚神経伝導検査

浅腓骨神経と腓腹神経を調べる.左右で比較することで軽度の異常を検出することができる.

総腓骨神経麻痺では,浅腓骨神経の感覚神経検査で振幅が低下する.しかし,その頻度は50%ほどである.

腓腹神経も障害されている場合,膝よりも近位での障害が示唆される.

後根神経根節よりも近位での神経根症の場合は感覚神経伝導検査は正常になる.

筋電図

前脛骨筋で検査する.他にも浅腓骨神経,脛骨神経,坐骨神経,上臀神経などが支配する筋を検査する.
脊髄神経後枝で支配される傍脊柱筋もよく検査される.

L5神経根障害を示唆する所見

神経根症では,上臀神経支配筋(中臀筋や大腿筋膜張筋)や傍脊柱筋起立筋に異常を認める

腰仙骨神経叢を示唆する所見

上臀神経支配筋が障害され傍脊柱筋起立筋が正常である場合は,腰仙骨神経叢障害が示唆される.

傍脊柱筋起立筋の異常は,高齢者や糖尿病患者などの神経根症がない症例でもみられることがある.しかし,傍脊柱筋起立筋障害も見られた場合は神経叢障害よりも神経根障害のことのほうが多い.

坐骨神経障害を示唆する所見

坐骨神経障害では,しばしば脛骨神経支配筋 や ハムストリングに異常を認める.しかし,ハムストリングは支配する枝の分岐より近位で障害されると障害を免れる.

総腓骨神経障害を示唆する所見

総腓骨神経麻痺では,前脛骨筋や浅腓骨神経で支配される筋で異常を認めるが,脛骨神経(後脛骨筋,腓骨筋)に支配される筋は正常である

総腓骨神経麻痺が疑われる場合,大腿二頭筋短頭での検査が局在診断に有用である.大腿二頭筋短頭に異常があれば,大腿中腹より近位での異常が示唆される(脛骨の外側顆より約15cm近位で総腓骨神経の大腿二頭筋短頭枝が分かれるため).

 

電気生理学的検査のピットフォール 

坐骨神経障害の注意点

坐骨神経障害では,総腓骨神経は脛骨神経よりも重度に障害される.そのため,足趾屈曲や内反よりも,下垂足と外反が目立つことがある.

脛骨神経障害が不明瞭である場合,坐骨神経障害を診断することが困難になる.下記の点に注意して診断する.

  • 総腓骨神経麻痺 + 筋電図で脛骨神経障害 → 坐骨神経障害.
  • 総腓骨神経麻痺 + 脛骨神経は正常 + 大腿二頭筋短頭の筋電図が正常 腓骨頭あるいはその若干近位での総腓骨神経単独障害 を疑う.
  • 膝関節の画像で異常がない場合には,膝より近位の大腿部画像も考慮する.坐骨神経遠位部(大腿二頭筋短頭枝の分岐よりも遠位部)での総腓骨神経成分の選択的な障害を検出するためである.

 

深腓骨神経単麻痺の注意点

腓骨頭での総腓骨神経は,深腓骨神経と浅腓骨神経が同じ鞘膜内を走っている.そのうち深腓骨神経が浅腓骨神経よりも前内側を走行する.腓骨頭では深腓骨神経が腓骨頭部で骨膜に近いため圧に脆弱である.そのため,腓骨頭での圧迫により深腓骨神経優位の障害を呈しうる

深腓骨神経単麻痺の場合も,膝関節から下腿近位の画像検査も含めて行う必要がある.

腓骨頭よりも近位の総腓骨神経麻痺で,深腓骨神経の選択的な障害が生じることがあるが,多くは孤発性である.もし膝関節の画像が陰性の場合,より近位の画像も考慮すべきである.

膝以遠での深腓骨神経単麻痺で下垂足を呈することは,直達性外傷やコンパートメント症候群以外ではまれである.

下垂足における MR neurography

末梢神経障害はMR neurographyで評価しうる.形態異常や信号変化、線維構造の消失、異常な走行、絞扼、内部あるいは外部からの圧迫病変などを観察することができる.

神経の評価

局所での絞扼により,絞扼部より遠位では神経径が異常になる.

正常の末梢神経は、骨格筋と比べて軽度高信号である(プロトン密度強調画像/ T2強調脂肪抑制画像).坐骨神経や総腓骨神経などの太い神経では線維構造が描出されうるが,細い神経では通常見えにくい.

脱神経が生じている筋の評価

T2強調脂肪抑制画像(Dixon法)プロトン密度強調画像などが使用される.STIR画像も筋の高信号を評価するのに有用である.

脂肪抑制画像はSTIR画像よりも信号対雑音比が改善し,従来の画像よりも骨格筋異常の検出率が高いと考えられる.

脱神経筋の時間経過

急性期(<1ヶ月)から亜急性期(1~6ヶ月)には,浮腫状パターンとなる.
慢性期(>6ヶ月)には,筋の脂肪置換となる.

脱神経所見の分布パターンは局在診断に有用である.

下肢MRI画像での各筋の部位と,支配神経.

撮影時の注意点

腰仙骨神経叢と骨盤内坐骨神経

プロトン密度強調画像と脂肪抑制画像(Dixon法)を,両側で水平断と冠状断を撮影し,左右で比較する.
加えて,坐骨神経や腰仙骨神経叢の垂直断面を撮影することも行う.

経静脈的造影剤の使用は,占拠性病変を認める場合や,非造影では異常が検出できない場合,術後瘢痕,炎症性ニューロパチーを疑う場合などに検討する.

大腿部や膝,下腿

プロトン密度強調画像と脂肪抑制T2強調画像(Dixon法)の水平断を撮影する.
手術時に位置を確認しやすくなるように,股関節や膝,足首などの関節部を含めてlocalizer sequenceを撮影する.

膝関節

膝関節周囲での総腓骨神経麻痺の場合は,脂肪抑制T2強調画像(Dixon法)を用いて,1~2mmのthinスライスで撮影する.

下垂足における超音波検査

坐骨神経や腓骨神経の評価として有用である.
MRIと比べて空間解像能が高く,動的な検査ができ,対側との比較もできる.

下垂足を生じる局在ごとのアプローチ

中枢性の原因

稀であるが,脳梗塞や脳腫瘍,脊髄病変で下垂足を生じうる.

中枢病変では,他の所見も伴う(Babinski徴候,腱反射亢進,レベルを持った神経徴候など).

脳・脊髄MRIが勧められる.脱神経は生じないので,電気生理学的検査は診断に寄与しない.

神経根症/腰仙骨神経叢障害

L5神経根症は,下垂足を生じうる.

典型的には下肢後面への放散痛を伴う腰痛や,近位筋の筋力低下も合併する(通常,股関節外転が障害される).

椎間板ヘルニア

急性例では,正中型ヘルニアあるいは椎間孔ヘルニアを認めることが多く,節前性の神経根症を生じる.外側ヘルニア(extraforaminal herniation)により,椎間孔を出た直後の脊椎外側部で神経根が圧迫された場合,節後性の神経根症を生じる

T2冠状断も撮影することで,椎間孔ヘルニア/外側ヘルニアの検出率が上がると思われる.また,T2冠状断では,椎間孔外での神経根腫脹が評価しやすい.

仙骨骨折

圧迫を生じるヘルニアを認めない神経根症では,仙骨の不全骨折がないか注意深く確認する必要がある.高齢者や骨粗鬆症の症例で特に重要である.

仙骨骨折はL5神経根やL5脊髄神経,腰仙骨神経幹を圧迫しうる.L5脊髄神経や腰仙骨神経幹は,第1仙椎の前面を走行するため,骨折部での骨形成により圧迫されうる.

 

仙骨不全骨折のMRI.仙骨骨折と腰仙骨神経幹が近接している.

腰仙骨神経叢障害

腰仙骨神経叢障害は,比較的稀な病態で,悪性腫瘍や外傷,血腫による圧迫,放射線治療後,炎症性の病態(糖尿病など),非炎症性の病態などで生じる.こ
れらの病態の多くでは,下垂足単独より,広範な神経障害を呈する.腰MRIで異常を認めない場合に,腰仙骨神経叢のMR neurograhyを行うことは有用である.

坐骨神経麻痺

坐骨神経障害の際に,脛骨神経麻痺より総腓骨神経麻痺の方が重症となりやすいため,総腓骨神経麻痺と紛らわしい.
坐骨神経障害の原因として外傷,手術などがある.

骨折

骨盤骨折や股関節手術などの際に,大坐骨孔内あるいは後方で坐骨神経が障害されうる.
ハムストリング断裂やハムストリング修復手術により,坐骨神経遠位部で障害されうる.

梨状筋症候群

梨状筋症候群で坐骨神経圧迫を生じることがある.
運動症状は稀で,下垂足の原因としては報告がない.

術中・術後の神経障害

股関節手術後の坐骨神経障害は,様々な機序で生じるが多くの場合は原因は不明瞭である.画像では,screw impingement,血腫での圧迫,移植骨の転位など.

脊髄の異常があると術中の牽引で坐骨神経障害が生じやすくなると考えられている.

術後の炎症性神経症も,術後の坐骨神経障害の原因として過去に報告されているが,現時点では除外診断が主である.

総腓骨神経麻痺

圧迫性

長時間膝をついた姿勢あるいは蹲踞姿勢が誘引になる.strawberry picker's palsy(いちご摘み麻痺)とも呼ばれる.

急速な体重減少による総腓骨神経上の脂肪組織の減少や,体重減少後の足組み増加で生じやすくなる(体重減少前に足組みができず,体重減少後にできるようになる場合もある).
片側あるいは両側の下垂足を呈する.

腓骨管や,大腿二頭筋腱と腓骨筋外側,腓骨頭の間で総腓骨神経が圧迫されうる.

外部からの総腓骨神経への圧迫による総腓骨神経麻痺の予後は一般的に良好である.電気生理学的検査で障害重症度を評価することが有用である. 

 

典型的な症例では画像検査の必要性は乏しい.
症状が持続あるいは悪化する症例,電気生理学的検査で異常が認めない症例では,MR neurographyでの病変の評価や,占拠性病変の除外に有用である.

膝での総腓骨神経麻痺と,坐骨神経内での選択的な総腓骨神経障害を鑑別するのに有用である(電気生理学的にも鑑別できる可能性がある)

外傷性

外傷性,手術関連の総腓骨神経麻痺(膝関節脱臼,近位部での腓骨骨折,膝関節鏡)などがある.

膝関節脱臼後の総腓骨神経麻痺の頻度は5~40%とされる(機序としては伸展や挫傷などである).神経損傷は後外側で生じ,重度のことが多く,機能改善する例は30%ほどとの報告が多い.MRIでは,病変の長さや重症度(神経腫の形成など),可逆的な可能性がある病変(血腫による圧迫,組織瘢痕など)などの情報が得られる.神経腫を形成するような完全な神経損傷では,処置を行わないと機能改善が得られない.また、障害部位や長さ,手術までの時間などが神経グラフトの必要性などに影響する.障害部位が長い場合は長い神経グラフトが必要となり,改善も悪くなる.

ガングリオン

神経内あるいは神経外の膝関節ガングリオン嚢胞は,下垂足の希な原因として重要でありる.MR nerurographyで検出することができ,治療可能な場合がある.

神経内ガングリオンは総腓骨神経を上行する.あるいは,深腓骨神経側に優先的に下降する.

神経内・神経外のガングリオンは,総腓骨神経あるいは深腓骨神経を圧迫し,下垂足を生じる.MRI nerurographyではガングリオンの位置や関節包との交通を確認することが重要である.

深腓骨神経

深腓骨神経の単独麻痺では,軽度の足関節背屈障害を生じるが,足関節外反は保たれる感覚障害はfirst web spaceに限局する.

長腓骨筋と後脛骨筋の筋電図は正常である.

我々の経験では,外傷性の孤発性深腓骨神経麻痺は稀である.脛腓関節以遠での深腓骨神経麻痺の原因として,外傷,前方コンパートメント症候群,炎症性ニューロパチーなどがある.

MRIでは,深腓骨神経の異常や,脱神経による下腿前コンパートメント筋の浮腫がみられる.外側コンパートメント筋は正常である.

 


 

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