脳神経内科医によるブログです。自己学習として読んだ論文や、論文中で出た英単語を記録しています。

高ホモシステイン血症を伴う健忘型MCIに対するビタミンB12と葉酸投与|神経内科の論文学習

最終更新 2020年11月30日

認知症や軽度認知機能障害(MCI)は日常的によくcommon diseaseです.

診察がうまく行かなかったり,治療がうまく行かなかったり…個人的に若干苦手意識がある分野でもあります…

今回は,健忘型MCIに対する治療についての研究です.

 

高ホモシステイン血症を伴う健忘型MCIに対するビタミンB12と葉酸投与

 

 

The effect of folate and VitB12 in the treatment of MCI patients with hyperhomocysteinemia

 Journal of Clinical Neuroscience 81 (2020) 65–6

www.sciencedirect.com

 

目的

この研究は ホモシスチン 決勝 を合併する MCI 患者 に対する 葉酸とビタミンB12の栄養の効果を調べる研究である

方法 Method

92例の 高ホモシステイン血症を合併する健忘型MCI(amnestic MCI) の症例が対象.

Inclusion

・主観的あるいは客観的に記憶障害がある.
・神経心理学検査で客観的に記憶障害があり,Hanchinski inschemia index<4点
・ADLが正常に近い(ADL scale<22点,CDR=0.5点) →ADL scaleが何かは詳しく書かれておらず…
・DSM-Ⅳの認知症(dementia)の基準に合致しない
・記憶障害以外の認知機能障害を伴わない
・総ホモシステイン>14μmol/L(正常値は5~14μmol/L)

Exclusion criteria

・精神疾患や精神発達遅滞,うつ病の既往
・パーキンソン病など脳機能に影響を及ぼす神経疾患の合併(パーキンソン病や脳血管疾患など)
・中枢神経系に影響する全身疾患の合併(甲状腺機能異常,重度の貧血,ビタミンB12欠乏,葉酸欠乏,栄養障害,心臓・肺・肝臓・腎臓などの重度の臓器障害)
・アルコールや薬物依存
・認知機能評価やP300の測定に非協力的
・総ホモシステインに影響を及ぼす薬剤の内服(避妊薬,抗てんかん薬,ドパミン,葉酸,ビタミンB12)を1ヶ月以内に内服している

群分け,介入

介入群46例,Control群46例にランダムに割り付けした.
両群とも通常の治療を受けたが,介入群では葉酸5mg/日,ビタミン B12 500μgを1日3回 の投与を受けた.
治療前後で,葉酸とビタミンB12,総ホモシステイン,MoCA,事象関連電位P300を測定した.

結果 Result

治療前では、葉酸とビタミンB12,総ホモシステイン,MoCA,P300 は両群で有意な差は無かった.

介入群での変化

第4週, 第12週, 第24週の検査では,治療前と比較して,葉酸とビタミンB12が有意に高く,総ホモシスチンは有意に低かった.

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MoCAの変化

Control群では,第24週のMoCAが,治療前と比べて有意に低かった.
介入群では,第24週のMoCAが,治療前と比べてで有意に高かった(Control群と比べても有意に高い)

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事象関連電位 P300の変化

潜時は治療前と比べて短く コントロール群と比べても短かった.
振幅は両群とも治療前後で有意差なし.

結論 Conclusion

葉酸とビタミンB12は 総ホモシスチンを低下させ,MCI の認知機能を改善させる.


論文を読んだ感想

 約半年程度でMoCAに差が出るのは注目に値すると思います.

 ビタミンB12や葉酸の数値ではなく,総ホモシステイン低下をもって治療を開始する点は,これまで考えたことが無かった点でした.

 効果があるようにも思われます.しかし,2群の割り付けはランダムなようですが,それ以外の無作為化が行われているかが不明であり,バイアスはあるように思いました(Limitationもはっきりとは記載されていない).本当に介入の効果があったかどうかは,まだ結論を出せず,RCTが必要なのかなと思いました.

 また,論文中にもありますが,より長期で,大規模かつ他の病型のMCIも含めてた研究が必要と思います.

 論文中の検査や,葉酸,ビタミンB12の投与などは非常に行いやすい検査治療であり,本当に効果があるとすれば比較的実施しやすいのかと思います.似たような報告は以前にもあったような…また調べてみたいです.

 本論文の主旨から外れますが,Hanchinski ischemia indexは今回初めて知りました.血管性を疑う根拠になりそうです.血管性認知症を疑ったときの一つの指標として覚えておきたいと思いました.