脳神経内科医によるブログです。自己学習として読んだ論文や、論文中で出た英単語を記録しています。

成人の進行性運動失調における診断と治療:種類/特徴/MRI所見|神経内科の論文学習

Diagnosis and management of progressive ataxia in adults

Pract Neurol 2019;19:196–207.
doi:10.1136/practneurol-2018-002096

pn.bmj.com

 

成人の進行性運動失調における診断と治療 第1回

 失調性は非常に鑑別が多岐にわたります.

 日常臨床では,概ねのルーチン検査行い,状況に応じて頻度の高い遺伝子検査も行い,それで診断が決め難い場合は,"孤発性の小脳失調症",として経過観察することが時々ありました.

 治療方針は変わらないにしても「特定の疾患に当てはめられないか?」と疑問に思う症例で悩むことがあり,総説を読んでみました.

 基本的事項も多いのですが,知識の再確認に役立ちました.

 ※長いので複数回に分けます.

 

 

失調の種類

  • 遺伝性 と 後天的/変性疾患 に大別される.
  • "孤発性" は家族歴が無いことを意味する.

後天性進行性失調の種類

  • 免疫介在性:傍腫瘍性脊髄小脳変性症,グルテン失調症など
  • 変性疾患:MSA-Cなど
  • 欠乏性:ビタミンB12,ビタミンEなど
  • 中毒性:アルコール性,フェニトインなど
  • 感染性:HIV, 孤発性Creutzfeldt-Jakob病, 進行性白質脳症など

遺伝性失調

  • 優性遺伝,劣性遺伝,伴性劣性遺伝,ミトコンドリア遺伝などがある.
  • 代謝性失調症(例;Niemann-Pick type C, Tay-Sachs病)は,遺伝性ではあるが,家族歴を認めない遅発性失調症を呈する注意深い臨床的精査と包括的な検査が必要である.

臨床的特徴

症状

不器用さ,不安定性,協調運動障害,発語不明瞭などを呈する.

まれに,動揺視力(oscillopsia)を呈する.

失調に関連する診察所見

  • 失調歩行.座位保持困難(通常は進行期でみられえる)
  • 注視性眼振,jerkyな追視,hypo/hyper-saccade
  • 構音障害
  • 企図振戦
  • 測定障害
  • 反復拮抗動作障害

時に重要な手がかりになる所見

  • 腱反射:Friedreich失調症,ビタミンE欠乏症ataxia with oculomotor apraxia(AOA) type2SCA2では通常低下~消失.
    優性遺伝SCAsとMSA-Cでは腱反射保持~亢進.
  • 眼球運動:毛細血管拡張性運動失調症とAOA type1,2 で眼球運動失行(ただしtype1では稀).
    SCA type2ではSlow saccades
  • 体位性低血圧(勃起不全や尿意切迫/尿失禁なも伴う):MSA-Cを示唆する.
  • 腱黄色腫(加えて若年性白内障):脳腱黄色腫症を示唆する.
  • 視覚誘発性の前庭動眼反射異常(head impulse testの異常):CANVAS(cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome)で特徴的で,加えて感覚性失調,neuronopathyを呈する.

発症年齢と失調の進行速度

鑑別を進めるための有用な情報である.

発症年齢
  • 早期発症(幼児期発症 or 20歳未満での発症):家族歴がなくても,多くは遺伝子異常による(通常は常染色体劣性遺伝やミトコンドリア遺伝).
  • 優性遺伝の失調(SCAs)は30~40代など,より後期に発症しやすい(このルールは必ずしも常に正しいとは限らない).
  • Friedreich失調症は晩期発症.
  • SCAsの一部は非常に早期の発症を呈する(CAGリピートが長い場合).
  • CANAVASは劣性遺伝であるが,通常遅い発症である(中年頃発症)
進行速度
  • 早い進行(週~月での進行):傍腫瘍性脊髄小脳変性症とCJDで特徴的である.
  • MSA-Cも進行が早いが通常は年単位での進行である.
  • 失調を評価するスケールがいくつか提唱されている(SARAなど)

観察

  • 脳MRI:失調症例の全例で必須である.小脳萎縮がみられる.
  • 診断につながることは稀であるが,占拠性病変の除外に役立つ.時に診断の手がかりとなる所見を認める(下記のMRI所見を参照).

MRI所見

診断的所見

  • MSA-C:Hot-cross bun sign,橋萎縮,中小脳脚萎縮 (T2/FLAIR)

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  • 脆弱X振戦失調症候群:中小脳脚高信号 (T2/FLAIR)
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  • 脳表ヘモジデローシス:ヘモジデローシス沈着,小脳萎縮 (gradient echo/T2*)

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  • 孤発性Creutzfeldt-Jakob病:基底核や皮質の高信号 (T2/FLAIR, DWI/ADC)
  • Charlevoix-Saguenay:橋の縞状低信号,上小脳虫部の萎縮,脳梁後部菲薄化 (T2/FLAIR)

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  • 遺伝性痙性対麻痺7:歯状核高信号 (T2/FLAIR)

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支持的所見 (家族歴がある場合)

  • Friedreich失調症/ビタミンE欠乏症:上位頸髄萎縮,小脳萎縮 (T1/T2)

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  • 毛細血管拡張性運動失調症/AOA type1,2:小脳萎縮 (T1/T2)
  • 優性遺伝脊髄小脳変性症:小脳,橋萎縮 (T1/T2)